ワルテルと天使たちと小説家

残雪の八ヶ岳



 八ヶ岳は標高1700メートルを超えた辺りから雪に覆われていた。
 気温が高いために半ば溶けはじめ、表面がずるずる滑る難儀な雪だ。

 登山ブーツにアイゼンを装着し、ピッケルを片手に、歩きにくい登山道を慎重に登っていく。

 初日は山腹にある赤岳鉱泉という山小屋まで。
 ここで一泊して、明朝早くから、八ヶ岳最高峰の赤岳を目指して登っていく。


17_0426_4.jpeg

 夜半から明け方にかけては氷点下まで気温が下がる。
 そのため山小屋を出発した時には雪も締まっていて歩きやすかった。
 しかし、太陽が高度を上げるとともにまた気温もあがっていく。

 下りのことを考えると、なるべく速く登って下りてきたいところだ。
 だが、雪に覆われた勾配は、体感的には垂直の壁だ。

 アイゼンの爪とピッケルを雪に突き刺して登っていくのだが、しんどい。
 息が上がる。
 頭上の太陽と、雪による輻射熱で一桁台の気温なのに、暑い。
 汗まみれになって雪の壁を登っていく。

 途中、さらなる急勾配に設置された階段があった。高所恐怖症の父ちゃんには夏場でも怖い階段なのだが、それが雪と
氷に覆われている。足を置く場所に気を使わなければ、アイゼンも利かずにつるっと滑って真っ逆さまだ。
 なんとか登ったが、下りはこの百倍怖いに違いない。

「こなきゃよかったかな」

 一瞬、後悔が頭をよぎった。




17_0426_5.jpeg

 樹林帯を抜けると、その先は雪と氷に覆われた岩稜だ。
 雪の積もった場所と、雪が溶けて岩が顔を出した場所が混在し、アイゼンを装着したままの足もとが覚束ない。

 なおかつ、痩せた尾根に積もった雪が、左右にすぱっと切れ落ちてナイフの刃のようになってしまった「ナイフリッジ」を渡らなけ
ればならない。

 補助の鎖は設置されているが、足を滑らせたら数百メートル下に落ちていく。
 怖い、怖い、怖い。
 でも、ここを渡らねば先には進めないのだ。

 怖さを理性で抑えこみ、なんとかナイフリッジを渡ると、その先はもう稜線だ。
 八ヶ岳ブルーと呼ばれる青空と赤岳、そして、その奥には雲海に浮かぶ富士山。

 ああ、怖い思いを押して登ってきた者へのご褒美だ。

 
 予想外に気温が高くなっているため、赤岳は諦めてここで下山するとリーダーが決断した。
 男4人で登っていたのだが、そのうちふたりはあまりこうした雪山登山に慣れていないからだ。


17_0426_8.jpeg

 雪が緩み、下りは登りの百倍、きつく、怖かった。
 階段はピッケルもアイゼンもほとんど利かず、手すりにしがみつきながら下りた。

 雪が緩んだ垂直の壁のような勾配はアイゼンの爪を突き立ててもずるずると滑る。
 気を緩められる場所などどこにもない。

 結局、下山したのは午後二時半。七時間、雪と格闘し続けたことになる。

 ほんとにしんどかった。
 翌日からは、こんなに酷いことはまずないというぐらいの筋肉痛が三日続いた。
 危険で怖くて、いつもより足に力が入っていたのだなあ。

 それなのに、次はどこの山に登ろうかと考えて胸を躍らせている。

 自分がそうなる前からわかっていた。
 山男はイカれている。


17_0426_12.jpeg


  1. 2017/04/29(土) 14:08:57|
  2. 登山
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:2

氷雪の美術館



 前夜に降った雪と強い風が、森の中に様々なオブジェを作り上げていた。

 標高2000メートル超の森の中は、まさに美術館。

 氷雪のアートの美しさ、厳かさに溜息をつくことを繰り返しながら登っていた。


17_0207_10.jpeg


17_0207_12.jpeg


17_0207_19.jpeg


17_0207_20.jpeg


17_0207_21.jpeg


17_0207_22.jpeg


17_0207_25.jpeg


  1. 2017/02/12(日) 08:54:50|
  2. 登山
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:3

白い森を征く



 前日に通過した低気圧がもたらした雪で、黒斑山腹の森は真っ白。
 まさしく、白い森と化していた。

 白一色の森の中を、山頂目指して登りはじめる。


17_0207_11.jpeg

 標高2000メートル、登山道入口の気温はマイナス5℃。
 しかし、北風が強く冷たく、体感温度はマイナス15℃近かった。

 寒い。
 しかし、登り続けていると暑くなってくる。
 休憩を取ると、また寒い。

 脱いで着て、着て脱いでを繰り返しながら高度を上げていく。


17_0207_13.jpeg

 途中、青空が垣間見られる時もあったが、基本は曇り空。
 途中から雪が降りはじめた。

 それも、粒が小さく固い霰のような雪。
 ばちばちと音を立てて登山ウェアにぶつかってくる。剥き出しの頬が痛い。

17_0207_14.jpeg

 それでも、雪質はよかった。新雪は10センチほどで、その下は固く締まった根雪。
 アイゼンの刃を根雪に食い込ませて登る。

 結局、雪がなければ2時間弱の行程を、3時間半近くかかって山頂に到達した。

 景観はなかったけれど、美しい白い森を歩くのは最高に気分がいい。


17_0207_15.jpeg

  1. 2017/02/11(土) 08:33:57|
  2. 登山
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:5

奥穂高岳 3  ご来光編



 ご来光を待つ登山者たち。


16_0903_26.jpeg

 茜色の地平線にぽつんと浮かんでいるのは、我が山、浅間山。
 この時期、北アルプスから眺めるご来光は浅間の近くから射し込んでくる。


16_0903_27.jpeg

 カップル登山者もご来光を待つ。


16_0903_31.jpeg

 そして、浅間山の麓から、太陽が顔を出した……


16_0903_32.jpeg


  1. 2016/09/04(日) 09:43:07|
  2. 登山
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:6

奥穂高岳 2  夕焼け編



 穂高連峰の稜線では凄まじい風が吹き荒れていた。
 持参したライトダウンを着込んで夕焼けを眺めに行ったのだが、寒い。風が強すぎ、冷たすぎるのだ。
 体感温度はもう氷点下。

 しかし、その強風のおかげでこの日の夕景は息を飲むほどの美しさだった。
 山肌に沿ってガスが沸き起こり、風に吹き消され、しかし、それに負けじとまたガスが湧く。
 オレンジ色の世界が、刻一刻とその姿を変えていく。


16_0903_9.jpeg


16_0903_11.jpeg


16_0903_13.jpeg


16_0903_14.jpeg


16_0903_15.jpeg


16_0903_18.jpeg


16_0903_20.jpeg


16_0903_22.jpeg


16_0903_24.jpeg

 太陽は笠ヶ岳の肩のあたりに沈んでいった。
 ああ、本当に美しかった。
 翌朝のご来光より、この日の夕方の方が圧倒的にカメラのシャッターを切った。
 太陽が沈んだ後は山小屋に飛び込んで、ストーブに両手をかざした。骨の芯まで冷え切っていたのだ。

 夜になると雲はすべてなくなり、新月期だったこともあり、空は文字通り満点の星々で埋め尽くされていた。
 天の河も肉眼ではっきりと見ることができた。人生で最高に美しい星空だった。
 父ちゃん、星空を撮影しようと今回の山行では秘密兵器を持ち込んだのだが、風はおさまらず、三脚を立てることもできなかった
し、なにより、風の強さと冷たさに父ちゃんが耐えられず、撮影は断念するしかなかった。

 まあ、人生そんなもんよのう……
 でも、写真には撮れなくても、この目で見た。それだけでよしとしよう。






  1. 2016/09/04(日) 09:36:09|
  2. 登山
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:1
次のページ

カレンダー

03 | 2017/04 | 05
- - - - - - 1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 - - - - - -

プロフィール

軽井沢で犬とともに暮らしています。 Canon EOS 7Dが愛機。レンズはそこそこ。

walterb

Author:walterb
 かつては夜の繁華街の住人。
 今は田舎暮らし。
 ネオンライトも雨上がりの森も、同様に愛す。

 冬が好きなのです。

最近の記事

最近のコメント

最近のトラックバック

月別アーカイブ

カテゴリー

FC2カウンター

ブログ内検索

RSSフィード

リンク

このブログをリンクに追加する