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ワルテルと天使たちと小説家

クマさん夫婦の贈り物



 クマさんというのは東京某所のレストランのオーナーシェフだ。ひょんなことから知り合って、シェフと客という関係よりずっと濃密なつきあいをさせてもらっている。
 マージを連れてはじめて軽井沢に来たのはクマさんの別荘に滞在するためだったし、それがあったからこそ、マージの最後の夏を軽井沢で過ごそうと決め、そして軽井沢町民になってしまったのだ。

 クマさんは軽井沢にもレストランを持っている。
 毎年、2月になると夫婦で軽井沢にやって来て、我々夫婦を誕生日ディナーに招いてくれるのだ。
 今年もその招待状が来た。
 思い切って今年は我が儘を言わせてもらった。レストランではなく、クマさんの別荘に招待してくれないだろうか。別荘なら、ワルテルたちも一緒にくつろぐことができる。

 もちろん、返事はOK,即答だった。クマさんたちもワルテルの病気のことは知っている。

 日曜日、我々はいそいそと出かけた。
 クマさん別荘に着くと、ワルテルの顔色が変わった。
 何年かぶりの訪問だったが、ワルテルはしっかりと覚えているのだ。

「ここはおっきいおじさんの家だ。おやつをたくさんくれるおっきいおじさんの家だ!!」

 別荘に入ってからも、ワルテルはただひたすらにクマさんの一挙手一投足を目で追っている。いつおやつがもらえるのか、頭の中にあるのはそれだけだ。
 ソーラは奥さんに甘えまくっている。

「ワルテルにおやつあげちゃだめなんでしょ?」
 クマさんが聞いてきた。
「火を通した肉ならOKだよ」
 わたしは言った。

 ワルテルにおやつをあげられないと思い、しょんぼりしていたクマさんの目が輝いた。

「そっか、ワルテル、肉ならいいのか。だったら、めちゃくちゃ美味しい肉焼いてやるからな!!」

 クマさんが持ってきた肉を見て腰を抜かしそうになった。
 おそらく、クマさんのレストランで人間様が食べたらん万円はする。そんな超高級仙台牛が出てきたのだ。

12_0304_15.jpg

 塩胡椒もせず、ただ石窯で焼いただけのステーキを小さく切り分け、クマさんはそれをワルテルとソーラに与える。

「美味しいか、ワルテル、ソーラ? 美味しいだろう。人間だってこんなにいい肉滅多に食えないんだぞ」

 ワルテルもソーラもクマさんに張りついて離れない。
 わたしも、その肉をつまみ食いした。ああ、本当に美味しい肉って、塩っけがなくても食えるのね~。

 抗がん剤の副作用か、微熱が出て調子がイマイチだったワルテルだったが、大満足の夜を過ごしたのだった。

12_0304_16.jpg

 もちろん、大満足だったのは犬たちだけではない。
 我々の食事も最高だった。
 前菜は骨付きラムばら肉のチャーシュー風味。続いて仙台牛のタルタル、大振りのハマグリを惜しげもなく使ったクラムチャウダー、カニとしめ鯖のサラダ、フォワグラを使ったディップをトルティーヤに載せて食べ、もうお腹いっぱいだというところで牡蠣飯が出た。これもまた絶品。なにしろ、土鍋にお米と牡蠣を入れ、それを石窯で炊くのだ。うまくないわけがない。

 もう食えない、もうダメ~と思っていたら、この日最高のスペシャルがやって来た。

12_0304_18.jpg

 スイーツである。サワークリームのムースとガトーショコラに蜂蜜がかかっている。
 写真では伝わらないだろうが、この蜂蜜がただの蜂蜜ではなかった。

 悪魔の蜂蜜だったのである。

 なにも知らされずにムースを口に放り込む。ほどよい酸味と甘みが口の中に広がった直後、えもいわれぬ香りが口から鼻に抜けていった。

「トリュフ?」
「そう。最高級白トリュフの香りを移した蜂蜜なの。うまいでしょ?」

 うまいなんてものではない。
 即座にガトーショコラを食べた。カカオの苦みの直後、またあの香りが鼻に抜けていく。

 なんたる香り、なんたる旨さ。
 わたしは食いしん坊で、世界中のうまいものを食べてきたが、断言しよう、わたしの生涯でなによりもうまいスイーツは、この悪魔の蜂蜜をかけたスイーツである。
 人間が味わっていい美味しさの限界を超えかけている。
 だからこそ、悪魔の蜂蜜とわたしが命名したのだ。

12_0304_17.jpg

 この悪魔の蜂蜜の余韻と共に吸うシガーの、なんと美味しいことか。
 次はクワトロフロマージュのピザにこの悪魔の蜂蜜をかけて食べたい、絶対食べるー!!
 そう宣言してしまった。

 2月以降、外食などほとんどしていなかった。留守の間にワルテルの病状が悪化するのが怖くて、いや、それ以上に一秒でもワルテルと離れていたくなくて、ずっと家にいた。
 だが、そんな日々も、この日、この夜がすべて吹き飛ばしてくれた。

 クマさん、みはるさん、本当にありがとう。
 あの肉をばくばく食ったワルテルの体内では、間違いなくナチュラルキラー細胞が増えたはずです。






  1. 2012/03/06(火) 09:46:27|
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軽井沢で犬とともに暮らしています。 Canon EOS 7Dが愛機。レンズはそこそこ。

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Author:walterb
 かつては夜の繁華街の住人。
 今は田舎暮らし。
 ネオンライトも雨上がりの森も、同様に愛す。

 冬が好きなのです。

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