ワルテルと天使たちと小説家

天翔る



 10月7日。
 ワルテルの命日を標高3000メートルで迎えた。

 気温は氷点下。冷たい強風が吹きつけて、冬用の防寒具をまとっているというのにあっという間に体温が奪われていく。

 寒さに震えながらご来光を待つ。
 地平線のオレンジを背景に、富士山が屹立している。
 その上には星々と月。
 下界にいたら、月がこんなに輝けば星は精彩を失う。なのに、ここでは月に負けじと煌々と輝いている。
 美しい。言葉を失うほどに美しい。

 やがて、雲海の向こうに太陽が顔を覗かせた。


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 カメラのファインダーを覗きながら、矢継ぎ早にシャッターを切る。
 構図を決め、露出を決め、シャッターボタンを押す。
 無意識のうちに指が動く。

 そうやって写真を撮っていると、ファインダーで覗いているのとはわずかに違う光景が頭に浮かんだ。

 透き通るほどに澄んだ標高3000メートルの天空を、ワルテルとソーラが駆けている。

 ソーラが逃げて、ワルテルが追う。
 時に絡み合い、じゃれ合い、また駆ける。

 嬉しそうだな。幸せそうだな。
 どこかにマージもいるんだろう?

 機械的にカメラを操作しながら、二頭に語りかける。

 やがて、ワルテルとソーラは登ったばかりの太陽に向かって駆けていき、太陽の中に消えて行った。

 太陽が昇りきったあとに残ったのは、すっかり凍えた体と、ほんわかと温かい心だった。


 文明を発展させる代わりに、人間は大切ななにかを失った。
 でも、やつらはきっとそこにいる。群れのそばにいてくれる。

 感覚がなくなるほどの寒さと、言葉を失うほどに美しい景色が、父ちゃんを無心にしてくれた。
 だから、見られたのかな。

 寒さに体が悲鳴を上げ、我に返った父ちゃんは山小屋に駆け込んで布団にくるまった。
 しばらく震えがおさまらなかった。 



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  1. 2015/10/09(金) 08:35:44|
  2. Dog
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軽井沢で犬とともに暮らしています。 Canon EOS 7Dが愛機。レンズはそこそこ。

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Author:walterb
 かつては夜の繁華街の住人。
 今は田舎暮らし。
 ネオンライトも雨上がりの森も、同様に愛す。

 冬が好きなのです。

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