ワルテルと天使たちと小説家

被災地にて



 酷い二日酔いだった。それなのに夏のような無慈悲な太陽の光が車内に射し込んでくる。サングラスをかけているのをいいことに、こっそり目を閉じ、何度かうとうとしていた。

「ここ、町があったんです」
 T君がいった。わざわざわたしのために被災地を案内する役を買って出てくれた男だ。

 その言葉を聞いた瞬間、眠気も胸のむかつきも消えた。
 なぜなら、「町があった」とT君が言った場所にはなにもなかったからだ。ただただ平地が広がっている。

 車を停めて、かつて町があったという地域をぶらぶらと歩いた。遠くから見ればそこはただの平地だったが、近づけば、確かにそこが町だったことが認識できる。
 津波にも流されることのなかった家々の基礎がずらりと並んでいるのだ。

11_1023_2.jpg

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11_1023_3.jpg

 何百棟、いや、千棟を超える家がこの辺りにはあったに違いない。
 そのすべてが基礎だけを残してすべて流されてしまった。
 茫漠たる光景に言葉がない。胸が締めつけられる。
 しかも、その景色はどこまでもどこまでも、果てることなく続いているのだ。
 北は岩手県から南は福島まで、いや、茨城や千葉を入れると、数百キロの範囲でこんな光景が広がっている。
 その際限のない広さ、その範囲のほとんどを根こそぎにした津波の凄まじさはテレビの映像や写真を見ただけではわからない。

 被災者以外のすべての日本人は自分の足で被災地に立ち、自分の目で実態を見るべきだと思った。

11_1023_4.jpg


 なにもない荒野を車は進む。やがて、右手に集落が見えてきた。近づくと、すべての家に破壊の痕跡があった。
 この辺りを襲った津波の高さは2メートル前後。一階部分が津波にやられた。
 そして、ほとんどの家が手つかずのまま、3・11の後、放置されている。
 もちろん、水道も電気も止まったままだ。戻ってきた人もいない。
 わずかばかりのボランティアが破壊された家からゴミやヘドロをかきだしている。

11_1023_8.jpg

 電線に繋がれていない電柱が一本、寂しそうに立っていた。
 聞けば、この電柱は津波に薙ぎ倒されたのだそうだ。それが自治体だか電力会社だかの人間が来て立て直していった。
 電気がいつ回復するのかの目処も立たず、おそらく、この辺りの住民は戻ってこないに違いないのにだ。
 なんという間の抜けた光景だろう。
 しかし、これが日本だ。わたしたちの住む国だ。心の底から被災者のことを考え、行動する政治家、官僚が皆無の国なのだ。

11_1023_6.jpg

 うち捨てられた集落の中をとぼとぼと歩いていると、どこかから犬がやって来た。首輪がついている。
 この辺りの片付けにやって来たボランティアの飼い犬らしい。
 彼はわたしたちを見つけると嬉しそうに駆け寄ってきた。まるで、案内役を買って出るとでも言っているかのようだ。彼の人なつっこさにずいぶんと救われた。

11_1023_9.jpg

 政治の場でも、メディアでも、復興復旧という言葉が踊っている。
 だが、実際には復興も復旧もなにひとつ進んでない。瓦礫が撤去されたというだけのことだ。一部の被災区域でライフラインが復活したというだけの話だ。
 見捨てられた地域は見捨てられたまま、ただそこにある。

 この日、仙台の最高気温は27度に達した。
 季節外れの夏空の下、うち捨てられた家々、見捨てられた土地は、無言のまま強い日差しを受けていた。

11_1023_10.jpg







  1. 2011/10/27(木) 09:08:41|
  2. その他
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:11
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コメント

一語一句ちゃんと読んだ。
  1. 2011/10/27(木) 09:31:26 |
  2. URL |
  3. burg #-
  4. [ 編集 ]

まだ時間が止まったままなんですね・・・
  1. 2011/10/27(木) 09:56:59 |
  2. URL |
  3. かぷ #JalddpaA
  4. [ 編集 ]

もどかしい・・・

わたしも、心に刻みながら読ませていただきました。
お金が、ほんとうに有効に使われるのならば、それなりの負担もするので、はやく動き始めてほしいと、
これ以上、被災された方々が辛い思いをされることがないようにと、願っています。
  1. 2011/10/27(木) 10:30:10 |
  2. URL |
  3. く〜り #lu3YW49c
  4. [ 編集 ]

哀しい青い空もあるんだ・・・・・。
  1. 2011/10/27(木) 10:35:34 |
  2. URL |
  3. たろお #luqF8lUM
  4. [ 編集 ]

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このコメントは管理人のみ閲覧できます
  1. 2011/10/27(木) 10:43:15 |
  2. |
  3. #
  4. [ 編集 ]

馳さま、取材お疲れ様でした。そしてありがとうございます。
震災移行、私自身、自分のことが大変で、震災直後はしょぼんとしていたけど、日々目まぐるしくしているうちに、被災地が遠くなっていました。
まっ、いっか~、と思っていた自分に冷水浴びたみたい(>_<)

自分に出来ること考えながら、また新たな気持ちで、生きていきます。

どうかどうか、また書いてください。
  1. 2011/10/27(木) 13:14:06 |
  2. URL |
  3. やん #i.VbLXTQ
  4. [ 編集 ]

従姉が・・・

私と仲の良かった従姉が、石巻市のパーキンソン病の施設に入っておりました。

施設は津波の被害を免れたのですが、医療事情の悪化により肺炎が蔓延したらしく、ある日突然、従姉の肺炎による死が伝えられました。

馳先生が目の当たりにされた光景は、私達も実際に見ないと信じられないでしょうが、目に見えない所にも、想像を絶する被害が及んでいるのだということを思い知らされました。
  1. 2011/10/27(木) 14:17:26 |
  2. URL |
  3. chabo #-
  4. [ 編集 ]

動き始めて欲しいです!

青い空は
何も変わらないのに

人の生きた証が瓦礫となっていく

3・11
あまりにも
大きな爪あとを残しているのですね。





  1. 2011/10/27(木) 17:59:48 |
  2. URL |
  3. さとりん #Qvhj6iC6
  4. [ 編集 ]

青空

3月11日以来、数多く見て来た被災地の景色、こんなに美しく、壮絶なものはありませんでした。改めて忘れてはいけないと思い知らされます。ありがとうございました。
  1. 2011/10/27(木) 20:42:33 |
  2. URL |
  3. 史 #-
  4. [ 編集 ]

確かに。

なんだろう、この感覚は。そういえば、いつの間にか私は自分の周りのことだけで精一杯な生活に戻ってる。別世界の話ではないのに。鈍くなってるのか。
おかしなことですよね。気づかせていただきました。ありがとうございます。
  1. 2011/10/27(木) 21:19:33 |
  2. URL |
  3. こはく #-
  4. [ 編集 ]

ありがとうございました。

Tです。その節はお世話になりました。

いまの被災地の様子を伝えていただいて、ありがとうございます。
全国区の報道では原子力関連のニュースでしか震災に触れなくなりましたが、現地ではまだ瓦礫が片付いて避難者が仮設住宅に入っただけで、復興というには程遠い、現在進行形の災害が続いています。
あの集落のS君も、一階が壊れた家をどうしようかとまだ決めかねていて、生活の建て直しに必死でいます。

こうして紹介していただけて、S君も喜んでおります。本当にありがとうございました。
  1. 2011/10/29(土) 18:53:35 |
  2. URL |
  3. T #-
  4. [ 編集 ]

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軽井沢で犬とともに暮らしています。 Canon EOS 7Dが愛機。レンズはそこそこ。

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Author:walterb
 かつては夜の繁華街の住人。
 今は田舎暮らし。
 ネオンライトも雨上がりの森も、同様に愛す。

 冬が好きなのです。

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